沼津倶楽部回収し再生
大正初期に実業家が沼津市の千本浜に建てた別荘で、戦後は高級割烹(かっ・ぽう)として知られた「沼津倶楽部(く・ら・ぶ)」の改修工事が進んでいる。一世紀近くたち老朽化が目立っていた木造建築を後世に残そうと、大正モダンの風情を残す洋間などがある母屋を修復した上で、宿泊施設も新築し、来春の再開業を目指している。(佐藤清孝)
改修工事は、同倶楽部を運営してきた社団法人沼津倶楽部=林茂樹理事長(68)=の委託で、東京の会社が取り組んでいる。
計画によると、約1ヘクタールの広大な庭園にあり、割烹に使われてきた母屋(約390平方メートル)を修復。数寄屋造りのしゃれた和室や、テーブルセットが置かれた和風仕立てのサンルーム、京都から移築された3畳台目の茶室などをすべてそのまま残し、厨房(ちゅう・ぼう)棟も移築する。茅葺(かや・ぶ)きの門も移築して、入り口を一新。道路真向かいにある市若山牧水記念館からも入りやすくなる。
新たに、2階建ての宿泊棟(8部屋)と男女別のエステ棟を造り、周囲に広い水盤を設ける。黒松を中心に200本近くある樹木や池などには、できるだけ手を加えずに残す計画だ。
建物は、地元有志で1946年に設立した社団法人が、国から買い取った。当初は割烹旅館として運営し、地元の名士が集うサロンとしてにぎわったが、近年は客足が遠のいて経営が苦しく、昨冬から休業していた。
一方、母屋の柱がシロアリに侵食され、屋根瓦もずれて雨漏りするなど老朽化が進んでいた。大幅な改修が長年の課題だったが、資金不足に悩んでいた。
林さんは昨年、理事長に就任。知人が建物の窮状を憂慮し、「文化財としての価値があるのに、このまま朽ちてしまうのは惜しい」と援助を申し出た。事業費は数億円という。社団法人は工事の完成後、改修を手がける会社に運営を任せる予定だ。
林さんは「貴重な木造建築の母屋が保存されることを何より喜んでいる。倶楽部がある千本浜はかつて別荘地帯として知れ渡っていた。今回の大修復で、沼津のよさを見直すきっかけになればうれしい」と話している。
沼津倶楽部 旧ミツワ石鹸(せっけん)の創業者・三輪善兵衛(1871~1939)が、別荘として大正初めに建設。本格的な数寄屋造りで、それぞれの部屋には庭への道がついている。特に、南に張り出した洋間のサンルームは、籐(とう)でできたいすとテーブルが置かれているが、デザインは和風。善兵衛は茶人でもあり、主な部屋には炉が切られている。社交の場としても利用し、年に何度か政財界の有力者を集めて「ミツワ天ぷら会」を開いたという逸話が残る。
(asahi.com)
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